地域の農業が育む豊かな世界

~知られざる佐渡の人とトキと農の物語~
佐渡市長・渡辺竜五さん
(市長インタビュー企画・中編) 

 トキの初放鳥から3年後、2011年に国連食料農業機関(FAO)より世界農業遺産(GIAHS・ジアス)の認定を受けました。能登ととも認定されましたが、これは日本初でした。
 ジアスは伝統的な農業や生物多様性、農村文化、景観などを全体として認定し、その保全と持続的な活用をねらうものです(※注1)。

国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS)の認定証を受け取る高野宏一郎元市長(2011年、写真提供:佐渡市)

 ジアスに認定されたときに、また新たな発見がありました。今まで言ってきた生きものの話とはまた別の新たな価値観です。

 田んぼの仕事というものは、水路の管理や田植えも含めて、1人ではできません。

 すなわち、農業は集落がないと成り立たないわけです。それが漁業との違いです。農業は集落の形成なくしてはできないから、農業集落と呼ぶわけです。
 では、農業集落が何を守っているか?それは伝統文化を守っているのです。農業が集落を形成し、そこに文化が産まれたのです。伝統芸能の多くが、五穀豊穣を祈願するために行われます。農業の恵みを神社にお願いするための手段だったのです。

 日本の郷土芸能や歴史を作っている、その多くの基盤は農業です。農業が業としてあることで農村の集落のコミュニティを維持できるのです。逆もしかりで、農村の集落コミュニティがないと農業はできません。

 実際に佐渡の農村を見てみてほしいです。例えば、祭りがある集落は若者が島から出ずに残ります。そして、村に残った若者たちは地域の農業を守っていくわけです。一方で、祭りがない集落は若者をつなぎとめることができず離れやすくなります。

 要するに、地域のコミュニティの機能、人、農業、文化、それぞれが切っても切り離せない関係にあるのです。農業というものは、単なる農産物を生産する活動ではなく、集落機能や文化を守るという、とても重要な役割を果たしています。

 世界農業遺産の認定を受けた後に、いろいろな活動をする中で、これもまたなるほどそういうことかと気づいたのです。
 さらに、とてもおもしろいのが、この世界農業遺産の考えは、昨年佐渡が認定された世界文化遺産(佐渡金山)にもしっかりとつながっていくということです。

注:世界農業遺産とトキと共生する佐渡の里山とは?(佐渡市公式サイト)

→ 後編『私が田んぼを守る理由―農業ではなく農として』へ

(聞き手・写真:服部謙次・佐渡市役所)